2021年4月27日
【PICK UP! LOCAL ACTION】#03 神宮前のおしゃべり喫茶
この連載は、渋谷区内のユニークな地域交流・活動を紹介していく企画です。渋谷には、おとなりサンデーの日だけにとどまらず、地域との関わりを持ちながら継続的に活動されている方がたくさんいます。渋谷区内の素晴らしい活動を、もっともっと多くの人に知ってもらいたい。そんな思いから、この連載が始まりました。
今回取材したのは、神宮前の「珈琲らぴす」で月に一度、「ほのぼのカフェ」というおしゃべり喫茶を開催している渡辺孝行さん。渡辺さんは福祉の仕事に携わる傍ら、マスターとして毎月欠かさずおしゃべりの場をつくっています。一体、どのような思いで始めることにしたのでしょうか。さっそく、お話をうかがってみました!
みんな、おしゃべりがしたい。
渋谷区神宮前の住宅街の一角に、小さな喫茶店があります。その名も、「珈琲らぴす」。屋根やのれん、椅子の座面に至るまで、さまざまなところにラピスラズリの石を思わせる鮮やかな青色があしらわれています。カウンターには、コーヒーカップがずらり。店内は10席ほどのこぢんまりとした空間で、思わずその場にいるお客さんとの会話が生まれてしまうほど、心地の良い時間が流れています。
実はここ、渡辺さんのお母様が経営している喫茶店。お店の営業時間外である、毎月第3日曜日の9時から12時までが、渡辺さんの運営する「ほのぼのカフェ」に変わります。参加したい人は好きな時間に来て、参加費として200円を支払い、あとはコーヒーを片手に話したいことを好きなだけおしゃべり。「最近こんなことがあってね」「ニュースでやってたあれ、どう思う?」といった具合に、ざっくばらんな会話が繰り広げられています。渡辺さんが高齢者福祉の仕事をしているからか、話題は認知症や介護、障がいについてが多いとのこと。最初はお知り合いの方ばかりが集まっていましたが、知り合いが知り合いを呼び、少しずつその輪は広がり始めています。なかには、喫茶店の店構えに誘われてふらっと立ち寄った、という人もいるそうです。
新型コロナウイルスの影響もあり、昨年からは直接お店に集まることが難しくなりました。しかし喫茶店とZoomをつなげば、そこはいつもと同じようなおしゃべり喫茶に。家にこもりがちなときだからこそ、おしゃべりが良いリフレッシュになっています。
地元で、自分の手で、やってみたかった。
渡辺さんが「ほのぼのカフェ」を始めたのは2019年から。参考となったのは、渡辺さんが以前から運営に携わっていた、別の地域のコミュニティカフェでした。そこで行われているのは、食べたり飲んだりしながらそれぞれの妄想を語るというもの。さまざまな人が集まっているからこそ、「その妄想、手伝うよ!」「今度、そのテーマで勉強会を開こう!」といったように、人と人とがつながり、新たな活動が生まれるきっかけになっていたのです。その様子を見ていて、「自分が生まれ育った地域にも、こういう場をつくりたい」と思った渡辺さん。ご実家の喫茶店は以前から、地域の人が集う場になっていました。営業しない時間があるのはもったいないと思い、この場所で、始めることにしたのです。
(「ほのぼのカフェ」の日には、渡辺さんがコーヒーを淹れてくれます。)
それ以来、月に1日、欠かさず場を開いている渡辺さん。どうして、あえてトークテーマを決めたり、ゲストを呼んだりしないのだろう。そんな疑問を投げかけてみると、「テーマを決めると、そのための場になってしまうでしょ」と渡辺さん。たとえば「認知症カフェ」「親子カフェ」など、同じテーマで集まることを目的とした交流の場はたくさんあります。でも「ほのぼのカフェ」は、ざっくばらんにおしゃべりするための場。あえてテーマを決めないことで、認知症のことも、介護のことも、何でも気軽に相談できるのです。もちろん、テーマを決めないからこそ、渡辺さんは何を聞かれても答えられるように、日常的に広い視野を持っておく必要があります。ただ、あえてつくりこまないことで、参加する人の「今日はこんなことを話したい」という主体性が尊重されるのです。さらに、さまざまな人が集まるからこそ、思わぬつながりが生まれます。これが、「ほのぼのカフェ」の良さなのです。
あえて、つくりこまない。だから、続けられる。
渡辺さんはふだん、ケアマネージャーの仕事をされています。特別養護老人ホームや地域包括支援センターなどの経験を経て、20年以上福祉の仕事に携わっています。
(昨年のおとなりサンデーの日、渡辺さんは渋谷のラジオに出演したそうです。)
これまで渡辺さんは、誰かが始めた活動を、続けられるようにお手伝いする役割を担ってきました。だからこそ、自身が主体となって始めた「ほのぼのカフェ」はある意味、続けられるかどうかの挑戦です。「続けられないことは、やりたくないんです」と笑って答える渡辺さん。「月に1日、テーマは決めない」。これらは渡辺さんなりの、続けるための工夫でもありました。
渡辺さんは、「たくさんの人を集めないと、つくりこまないと」と無理に思わず、自分のペースで活動されていました。そして意志を持って続けることで、一緒に楽しんでくれる人が増えてきたということを、教えてくれました。渡辺さんにとって珈琲らぴすは、自分の手で活動を始めるきっかけとなった場所。そういう意味ではおとなりサンデーは、自分で何かを始めたい人にとっての、良いきっかけになるかもしれません。
渋谷区には、まだ知られていない地域活動がたくさんあります。渋谷という地域のことを知りたい人も、おとなりサンデーで何か企画したい人も、引き続き「PICK UP! LOCAL ACTION」をぜひチェックしてみてください!
※撮影時のみ、マスクを外していただきました。
テキスト:家洞 李沙(Fan club)