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2021年5月9日

【PICK UP! LOCAL ACTION】#04 地域を見守る魚屋さん。

この連載は、渋谷区内のユニークな地域交流・活動を紹介していく企画です。渋谷には、おとなりサンデーの日だけにとどまらず、地域との関わりを持ちながら継続的に活動されている方がたくさんいます。そんな素晴らしい活動を、もっともっと多くの人に知ってもらいたい。そんな思いから、この連載が始まりました。

今回取材したのは、神宮前で「魚まみれ眞吉」という居酒屋を営む日紫喜 智(ひしき さとし)さん。もともとは居酒屋のみの営業でしたが、一度目の緊急事態宣言をきっかけに店頭で魚を売り始めると、営業後2時間半で売り切れてしまうほどの大反響。始めてから約1年が経った今では、毎日魚を買いに来る常連のお客さんも増えているようです。日紫喜さんは一体、どんな思いで魚屋としての営業を始めることにしたのでしょうか。さっそくお話をうかがってみました!

「今日の夕飯、何にしよう」。

金目鯛、のどぐろ、いわし、スミイカ、しじみ色とりどりの魚がずらりと並ぶ「魚まみれ眞吉 原宿店」。その確かな味と日紫喜さんの人柄の良さから、今では魚屋としてもたくさんの人から愛されています。どれも新鮮で、美味しそうな魚たち。取材時間の少し前に着いたこともあり、せっかくだから取材陣も、夕飯のお味噌汁用にしじみを購入することにしました。「しじみは、冷凍すると旨味が増しますよ」といった会話も気軽にできるのが、地域の魚屋の魅力のひとつ。日紫喜さんとお話ししていると、こうしてふらっと立ち寄る人もいれば、「LINEオープンチャット」で注文してから取りに来る人もいるということを教えてくれました。気になって見てみると、すでになんと約260名(取材時)もの人が登録しています。


(オープンチャットの様子。今日のおすすめも、ここで確認できます。)

日紫喜さんは、豊洲市場が空いている日は毎日買い付けに行き、販売する魚をこのオープンチャットへ投稿しています。すると、「スミイカひとつ、イカ墨パスタ用にお願いします」「金目鯛を2匹、三枚におろしていただけませんか?息子が17時に取りに伺います」といった具合に、続々と注文が入ってくるのです。過去にはお客さんの投稿をきっかけに、アクアパッツァブームが起こったこともあったのだとか。オープンチャットは、お店とお客さんとの新しいつながり方であり、お客さん同士がそれぞれの存在をなんとなく認識するきっかけの場でもありました。

困ったときはお互い様。やれることは、すべてやろう。

日紫喜さんが「魚屋眞吉」を始めたのは、一度目の緊急事態宣言のとき。外出自粛によってお客さんも足を運べなくなったため、居酒屋としては厳しい状況が続いていました。それでもお店とスタッフを守るために、営業する店舗を減らしたり配達を始めたりして、なんとか居酒屋としての営業を続けていた日紫喜さん。そんななか、「自分たちが困っているということは、仲買さんや漁師さんも困っているはずだ」ということに気がつきます。そこでふだんお世話になっている仲買さんたちのもとへ行くと、飲食店との取引が激減したために、新鮮な魚を仕方なく捨てていたという事実を知ったのです。

「思いついたことは、すべてチャレンジすること」がモットーの日紫喜さん。そこで少しでも彼らの役に立とうと、売れ残っている新鮮な魚を買い付けて、ほぼ原価で販売することを決意。さらにスタッフのすすめもあり、オープンチャットを始めることにしました。


(「原宿店」の店内にて。魚の知識を深めるために、スタッフは全員「日本さかな検定」を受けているのだと教えてくれました。)

すると、噂を聞きつけた地域の方がこぞって、魚を買いにやって来るようになりました。実はお客さんたちも、外食ができずに困っていました。家で過ごす時間が増えたからこそ、オンラインでの気軽なやりとりやテイクアウトが喜ばれたのです。さらに、「今度はこんな魚を仕入れてほしい」「魚の捌き方を教えて」など、地域密着のお店ならではの交流が生まれるようになりました。

魚屋が、地域を見守る場所に。

日紫喜さんはこの仕事をする前、ホテルマンとして働いていました。人と話すことが好きだったという性格は、お客さんとのコミュニケーションを取ることが多い「魚屋眞吉」でも、大いに発揮されています。常連のお客さんから「サトシ君」と呼ばれるほどの気さくな性格はもちろん、美味しいものを「美味しい」と正直に伝える、媚びへつらうことのない姿勢も、日紫喜さんの魅力のひとつ。お店とお客さんとの対等な関係性が、「魚屋眞吉」が地域で受け入れられる理由です。

10年間この場所で居酒屋をやってきましたが、魚屋を始めてからは、客層も少し変わりました。魚の捌き方を習いに来る中学生、毎回アサリを買いに来る女の子、ただおしゃべりにやって来るご高齢の方お客さんは魚を買うだけでなく、日紫喜さんとの何気ない会話や交流を楽しんで帰っていきます。些細なことのようにも思えますが、ご近所に顔見知りのお店があることは、地域の人びとの心の支えになっているようです。たとえば、何日も来ていないお客さんのことを心配していたら、「あんたが店にいなかったからだよ(笑)。こっちこそ、心配していたんだよ」と言われた、なんてことも。

日紫喜さんが始めた「魚屋眞吉」は、地域の人びとの食を支え、心を支え、つながりをつくり、気づけば地域の見守りの役割まで担うようになりました。こんな店が地域にたくさんあったならどんなに心強いことだろう。日紫喜さんは、状況が落ち着いたら居酒屋のみの営業に戻すつもりでしたが、「こりゃあ、やめられません(笑)」とうれしそうに答えてくれました。

 

渋谷区には、まだ知られていない地域活動がたくさんあります。渋谷という町のことを知りたい人も、おとなりサンデーで何か企画したい人も、引き続き「PICK UP LOCAL ACTION」をぜひチェックしてみてください!

※撮影時のみ、マスクを外していただきました。

テキスト:家洞 李沙(Fan club