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2021年6月25日

【PICK UP! LOCAL ACTION】#05 〜イタリア編〜 「地区の家」に学ぶ、関わりあいのつくり方

PICK UP LOCAL ACTION」も今回で5回目。ここでは毎回、渋谷区内のユニークな地域交流・活動を取材し、連載しています。
今回は番外編として、イタリアでさまざまな地域福祉活動をされているファビオさんをお招きした勉強会の様子をレポートします! 渋谷区での地域活動の参考にイタリアの事例を勉強するって、なんだか先進的ですよね。


(地区の家は、市民の第二の我が家。)

今回お話を伺ったファビオさんは、市民から心の父のように慕われている方。街を歩くと、駆け寄ってあいさつをしたりおしゃべりをしたりする人たちであふれて先に進めない(!)ことからも、愛されていることがよくわかります。ファビオさんはこれまで、移民や外国人、子どもたちのために、学習プログラムの提供や職業案内、住宅のあっせんなど、さまざまな活動をされてきました。驚くことに、そのほとんどが無償!社会的に弱い立場に置かれた人びとと向き合い、熱心に活動されています。

そんなファビオさんのお話を聞こうと集まったのは、教育、福祉、食、広告さまざまな分野で活躍されている約30名の皆さん。ファビオさんと近い分野で活動しているからこそ、皆さん、高い関心を持って参加されました。今回は、オンラインでの開催。ファビオさん、通訳の多木さんはお昼のイタリアから参加。日本語とイタリア語が飛び交うという国際的な雰囲気のなか、勉強会が始まりました。

(左)ファビオ・スカルトゥリッティ(Fabio Scaltritti) さん
市民団体「サン・ベネデット・アル・ポルト協会」主宰。イタリア、北部の都市アレッサンドリア(人口約9.3万人)にて、30年以上にわたり数々の地域福祉活動を展開されてきた。

(右)多木 陽介 さん
演出家、アーティスト、批評家。1988年に渡伊、ローマ在住。ふだんは「エコロジー」をテーマに調査研究されている。今回の通訳とインタビュアーを務める。

市民を家族にする場所「地区の家」

イタリア、アレッサンドリアという街に、地区の家という場所があります。1,500平米の倉庫を借り受けてつくられたこの場所は、一度に1,000人が集まれるほど大きな施設。市民なら誰でも利用でき、結婚式や「おとなりマーケット」、外国人向けのイタリア語教室など、毎年100個ほどのイベントが開催されています。また、駅から歩いて行ける距離にあるという立地の良さから、州や市が主催のイベント会場として活用されることも。日本で言う公民館のような場所ですが、イベントの9割以上が市民団体主催というところから、アレッサンドリア市民がごく普通に使っている場所だということがよくわかります。たくさんの人が集うことから、地区の家をきっかけに顔見知りになることも多いのだとか。


(地区の家で行われているおとなりマーケット。おとなりサンデーと、似た雰囲気を感じます。)

地区の家は、ファビオさん率いる市民団体が、街全体の生活の向上を目的としてつくった場所です。できるだけ多くの人に自由に使ってもらえるように、使用料は時間制ではなく、破格の年会費制。また、主に銀行やクラウドファンディングの資金によって運営されているので、ここでのサービスはすべて無料。何度でも地区の家を使い、たくさんの人と関わってほしいという、ファビオさんたちの願いが込められています。


(地区の家の前の道路には、机と椅子が置かれ、市民の交流の場として使われることも。)

さらに地区の家のすごいところは、その思いが今、街中へと広がっていること。イベントを開催する際には市の許可を得て地区の家の前の道路を中庭のように使うことができますし、歩いて行ける場所には、社会的に弱い立場に置かれた人びとが働いたり、利用したりできる場所があります。

たとえば、「ソーシャルレストラン」では精神障がいのある方が給仕として働いていたり、「セカンドライフ」では5ユーロで衣服を何でも揃えられたり。ほかにも、地区の家の近くにはファブラボやコワーキングスペースなどもあります。これらは地区の家と同じく、街全体の生活向上を目指してつくられた場所で、地区の家が「ハレ」なら、これらの場所は「ケ」。市民が日常的に楽しめる場所の延長線上に、地域福祉活動が存在しています。地区の家とその周辺一帯は、市民が集まり、家族のようにつながれる場所になっていました。


(ソーシャルレストランは、ランチで1日200食が出るほどの人気ぶり。)


(セカンドライフでは、無料で集めた衣服や鞄を、特別な価格で販売しています。)

助けてもらったからこそ、何かしたい

続いて、コロナ禍で行った地域活動についてファビオさんに聞いてみました。ファビオさんはこの1年、コロナ対策に関するさまざまなサービスを一覧できるオンラインのプラットフォームをつくったり、ホームレスの方々の健康状態を市全体でモニタリングする取り組みを始めたりしました。また、地区の家ではイベントこそ開催できなくなりましたが、その代わり、食料品や衣料を集めて必要な人へと渡すための集積場所として活用しました。


(地区の家には36トンもの衣服が集まり、10%はセカンドライフで販売、40%は無料で配布しました。)

さらに、イタリア国内で登校禁止となったために、ミラノやトリノへ進学していた大学生が実家に戻ってきていることを知ったファビオさんは、彼らのために、地区の家の一角を勉強スペースとして開放。市内のカフェも閉鎖していたため、何人もの大学生がここに集まり、勉強場所として通うようになったそうです。

すると、しばらくここを使っていた大学生のうちの数名が、地域で困っている方々を助けるボランティアとして活躍したり、大学生の発案でプロジェクトが始まったりするという、思わぬ展開に。地区の家では多くの人が助けられ、次はその人たちが他の人たちのために新たな取り組みを始めるようになるという、クリエイティブで愛のあふれる場所になっていました。

「支援」という名の押しつけになっていないか?

最後に、こうしたさまざまな活動をするうえで心掛けていることについて、ファビオさんに聞いてみました。すると「ほどこしをしてはいけない」と、ファビオさん。たとえばホームレスの方の住む場所を探すとき、自分たちが行政との窓口となって一方的に提供するのではなく、彼らが直接話せる場所を作ることが大切なのだと。ほどこしは、支援する側の論理。自分たちが間に入り、代弁することが、本人にとっては大きなお世話という可能性があると。

この考えは、セカンドライフの運営にも共通しています。「無料でもらうのではなく、たったの1ユーロでも自分で選んだということが、本人の尊厳の尊重と自立につながる。支援は、ときに押しつけになってしまうことがある」とファビオさん。ファビオさんは、本当の意味で一人ひとりを尊重するための方法を考え、それぞれが帰ってこられる場所、新しくつながりをつくれる場所として、地区の家を運営していました。市民からファビオさんが愛される理由が、分かったような気がしました。

参加者からの感想

ファビオさんの骨太な地域福祉活動は、多くの参加者の心に響いたようです。代表して2名の感想を、一部抜粋してご紹介します。

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大変興味深いお話でした。私達のやらなければいけないと考えていることをそのまま実現されている事業ですね。笹塚幡ヶ谷と規模はちがえど、ミッションは同じです頑張ります。有り難うございました。いつかイタリアに一緒に行ける日が来ると良いです
(一般社団法人 TEN-SHIP アソシエーション 代表理事)
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私はコロナ出現をきっかけに子育て支援団体のスタッフになりました。そこで、是が非でもヒントを得たくて勉強会に参加しました。ファビオ氏の団体に起きたパンデミックBefore/Afterは、私が体験したこと似ている部分があり、コロナ禍を生き抜くヒントをたくさん頂けました。市民団体が行政とつながり、なるべく多くの人が自由に使える仕組み作りをする、私にもまだできることがあると未来を前向きに描けるようになれました。 ファビオさん、グラッツェ!いつかアレッサンドリア市に行きたいです。
NPO法人ふれあい子育てサロン スイミー 事務局スタッフ)
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渋谷区と、アレッサンドリア。取り巻く環境はちがうものの、地域に根ざして活動するという意味では、同じ志を持った仲間の意見交換の場になりました。

渋谷区には、まだ知られていない地域活動がたくさんあります。渋谷という地域のことを知りたい人も、おとなりサンデーで何か企画したい人も、引き続き「PICK UP LOCAL ACTION」をぜひチェックしてみてください!

テキスト:家洞 李沙(Fan club