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2023年4月7日

【渋谷おとなり散歩開催レポート①】働きながら地域とつながるには!?緑道を歩きながらヒントを探そう!

 312日(日)、少し曇りがちですが暖かくて、絶好のお散歩日和。京王新線初台駅南口を出てすぐの「初台緑道」が集合場所です。案内人の海上亜耶さんのもと、参加者4名が集まり、お散歩スタートです。


■初台緑道に集合した案内人の海上亜耶さん(左から3人目)と参加者のみなさん

案内人の海上亜耶さんは、初台の実家で学生時代を過ごし、就職して海外勤務を経験したのち、2019年に初台に戻り、会社勤めの傍ら、この緑道を舞台にまちづくり活動を行なっていらっしゃいます。
海上さんがまず説明してくれたのは、集合場所の「初台緑道」と、緑道に設置された「仮設FARM」について。初台緑道は、幡ヶ谷―初台間を流れていた玉川上水の水路が暗渠化されてその上に整備された遊歩道兼公園。できてからすでに40年近く経ち老朽化していることもあって、2年後には再整備されることが決まっています。緑道再整備のコンセプトは「FARM(ファーム)」で、「農園」の意味に加え、地域コミュニティや創造活動を「育む」という意味が込められています。そして「仮設FARM」は、緑道での農園の運営方法を探るための実証実験として、公募で選ばれた20名の市民によって運営中だそうです。


■「仮設FARM」ではプランターが並ぶほか、オンライン管理などの実験が行われている

「ただ再整備するというのではなく、みんなでいい場所にしていけたらいいな、と思っています」と海上さんは言います。「でも実際は、公共事業は行政がやってくれるもの、と思っている方も多いんですね。なので、私たちの活動も『まずは外に出て、自分たちでやれることをやってみません?』というところからスタートしました。すると、行政任せではなく『自分たちの手で育てていくというのも大事だよね』と思っている人がいっぱいいることがわかったんです。志がすごく高いというのでなく、『ちょっとこの花壇で育てているんです』みたいな人がたくさんいらして……そういう人たちが地域に増えていくのがいいな、と思っているんです。そういう目で今日も緑道を見ていただけたらいいな、と思っています」と海上さんが見せてくれたのが、「自主管理花壇」のマップです。


■海上さんがつくった初台緑道の「自主管理花壇」マップ

自主管理花壇とは渋谷区の公園課に、「ここの区画でお花を育てたい」と申請して登録すると、花壇の面積に応じて花の苗や土を支給してもらえる制度。「それをやっている人たちが、いまから歩くエリアだけでもこれだけいらっしゃるんですよ」。何気なく見ている花壇がこんなにたくさんの方々の手によるものだとは!


■これも自主管理花壇?美しい寄せ植え

花壇を見ながらしばらく緑道を歩いていくと、建築家仙田満さんがデザインしたというモダンなトイレ。ここが海上さんたちのプロジェクト「ハツマチ*コミュニティトイレパーク 緑道発・ありがとうをつなぐプロジェクト」の拠点です。
「2年後の再整備まで朽ち果てていくのを見るのも情けないので、外側だけでもきれいにしてみようかというところから始まりました」と海上さん。「実はここは甲州街道に車を停めたトラックやタクシーの運転手さんとかの利用がすごく多いんです。なので、外壁もきれいにしてお花でも飾ることで少しでも癒されてくれたら……みたいなかたちで始めたんです。そうしたら次には、この壁がおもしろいねとなりまして、地域のおじさんたちが高圧洗浄してくれたら真っ黒だったのがみるみる綺麗になり、洗浄も定期的に続けています」。
昨年はきれいになった壁に保育園の子どもたちに落ち葉でつくってもらったアートを飾りました。公園課に申請して、苗や種をいただいて壁面緑化もしています。ペットボトルでつくった鉢などもみんなの手づくり。「やってみるといろいろな人が次々アイデアを出してくれますね」(海上さん)。
再整備されればこのトイレも壊されてしまうけれど、「感謝しながら最後まで楽しく使い続ける」ことを通じて、新しい緑道を迎えるコミュニティの礎をつくっていきたいというのがこのプロジェクトの思いなのだと海上さんは言います。「ひとつの場所がきれいになったり、壁面緑化など使い方を変えることで、その場所の景色も変わってきます。そういう試みや経験をつんでおくと、緑道が再整備された後も自分達の知見を活かしてみようという人が、ひとりでもふたりでもでてきてくれるのではと思ってやっています」。


■ペットボトルを使って季節の花々を飾る壁面緑化(左)とトイレ前面の壁(右)


■海上さん(前列左)とメンバーの方々

プロジェクトメンバーのみなさんと別れたところで、海上さんは本日の散歩ルートを見せてくれました。それがこのマップ。初台エリアが甲州街道と山手通り、代々木との境界線に囲まれたきれいに三角なエリアだなんて、このマップを見るまで気づいていませんでした。これから、あまり普通の人が歩かない、海上さんの推しルートを歩こうということらしいのです。それが黄色の点線部分。三角形の頂点、山手通りとに出るところまでお散歩します。


■海上さんが用意してくださったマップ


■海上さんの推しルートへ出発

歩き始めて驚いたのは、初台はかなり高低差があるということ。甲州街道側が高く、代々木側の西がかなり低い。それはなぜかというと……初台川(マップではブルーの線の部分)に向かって低くなっているからです。


■駅から離れていくと急な坂が多くなる。かなりな高低差


■橋の遺構に興味津々の面々

初台川はいまでは完全に暗渠になっていて、川であるという痕跡は橋の遺構があることでわかるのみです。道は狭い裏道ですが、「初台のいい散歩道になるじゃないかと思っているんですよ。きれいにしたらここでもなにかできるかな、と思っているんです」という、海上さんの推しの道。知られざる初台の魅力のひとつになりそうです。
この道を辿ると山手通りにぶつかります。これが三角形の頂点。ここで一休みして昼食を食べながらあれこれ話したのち、再び初台駅方面に向かいます。途中、築90年の日本家屋に併設していた旧電器店の倉庫を改装してギャラリーにした現代美術を扱うPAGIC Galleryに立ち寄り、お庭を見せてもらいつつ、再び緑道に戻り、お散歩の最後は幡代小学校の隣にある小さな公園、初台第二児童遊園地。


■こどもたちと一緒に公園に植えた花を順番に見ていく

ここでは、「つながるガーデン」と「青空コーヒー」が行われていました。
この活動は、こどもたちの居場所としての菜園をつくりたいと考えていた佐々木桐子さんと仲間が2021年に始めた幡代小学校構内の菜園活動「つながる菜園」から派生した活動で、毎月1回、こどもたちとともにさまざまな植物を植えたあと、コーヒーやお菓子を一緒に楽しむ活動をしているそうです。土をいじり、植物の種を植えていく子ども(と大人)はとても楽しそう。小さくはじめて、徐々に開墾を広げていったそうです。当日は区役所の公園課の職員さんたちも参加していて、住民の「やりたい」に寄り添ってくれている様子もよくわかりました。


■作業後は青空コーヒーでひと休み


■青空コーヒーを楽しんでいた区役所公園課の方々も含む参加者の方々と、おとなり散歩参加者も混じって記念撮影。「つながるガーデン」のプロジェクトリーダーの佐々木桐子さん(右から3人目)とサブリーダー荒島智貴さん(左から2人目)とともに。おふたりとも初台住民。

青空コーヒーに別れを告げた後、緑道に戻って振り返りの時間に、参加者の一人が、「植物を育てるということは継続的に関係をつくるということだと実感した」と言っていました。海上さんは、「そうですね。まちに関わりたいと思ってなにげなく始めた活動だけれど、ペットボトルも意外に長持ちするなとか、植物ひとつひとつに蒔き時があるなとか、やって初めてわかることも多く、植物に学ぶことも多いです。わからないことは佐々木さんに聞いたりしますし、朝顔にとっても詳しいおじさんがいたりもします。人によっても、植物によっても、向き合い方がそれぞれ違うんですよ。植物がまちの中にあるということは、見て美しいということだけじゃないんです」とおっしゃっていました。
育む時間を分かち合うことで、人と人がつながる。子どもも大人も自分の役割と居場所をつくれる……そんなまちづくりをしている人々と出会い、初台のおもしろさを堪能したおとなり散歩になりました。

 

テキスト:紫牟田 伸子