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2024年5月2日

【渋谷おとなり散歩2023開催レポート②】子どもと街の人との「ナナメの関係」を考える平日散歩!

道路を歩く人々

中程度の精度で自動的に生成された説明

案内人・永井知佳子さん(右から3番目)と参加者の方たち。

暖かな日差しに春の訪れを感じる3月22日(金)、代々木西原公園に10人ほどが集合しました。「ひさしぶり」と「はじめまして」が入り混じります。

地域で活動している方の案内によるお散歩を通して、お互いの活動や考えを知ろうという「渋谷おとなり散歩」。今回の案内人は、永井知佳子さんです。

永井さんは、渋谷区地域子育てコーディネーターとして、保育園と地域をつないでいます。他にも区内の子連れスポットや子育て関連団体・施設の情報をまとめた「渋谷子育てmap」の制作や、自分らしい子育てを見つけられる場「渋⾕papamamaマルシェ」の運営など、自身の子育て経験を活かした活動を行ってきました。

今回のテーマは、「子どもと街の人との『ナナメの関係』を考える平日散歩!」です。

「渋谷で核家族で子育てをしていると、学校と家庭内のタテとヨコだけの関係になってしまいがち。でも⾃分は、タテとヨコだけでない地域の⼈との『ナナメの関係』ができたことですごく楽になったし、何より我が子たちを見ていると、例えば地域のおじさんやおばさん、お店の人、年齢が違う友達などとの『ナナメの関係』が、子どもの成長に大事だなと感じるようになったんです。今日は、富ヶ谷地域の街の人と子どもの交流を体験しながら、みなさんと何ができるのか一緒に考えられたら」と永井さん。

歩道を歩いている人たち

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晴天の下、おしゃべりしながら歩きます。まずは、区立元代々木保育園へ歩いて移動。ふだん平日の保育園を訪れることはないので、少しどきどきしながら門をくぐりました。

まちの人も一緒に、保育園の菜園をつくる

1978年に設立された元代々木保育園では、0歳から5歳までの園児が日々過ごしています。永井さんはこの保育園で、高橋洋子園長をはじめとする先生たちと協力し、地域や保護者のボランティアの方々と菜園づくりや園庭・屋上の緑化を進めています。この日は、4歳児クラス・ぶどう組さんと一緒に、タデアイ、オシロイバナの種を植えました。子どもたちは、大勢の大人にそわそわしながらも、元気なあいさつと自己紹介で迎えてくれました。

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永井さんと菜園ボランティアのはるかさん、みえさんがこれから何をするのか、どんな植物を植えるのか、身振り手振り説明します。

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まずは、鉢に土を入れます。シャベルを持ってわいわいとにぎやかな子どもたち。

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鉢にそっと種を蒔きます。タデアイは夏頃、花が咲く直前に摘み取って愛染をする予定です。アシタバは、アゲハ蝶が大好きな葉っぱで、芽吹いたらアゲハ蝶がやってくるかも。

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鉢をきれいに並べて、最後はたっぷり水をやりました。「毎日お世話する」と言ってくれた子どもたち。頼もしいです。

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種まきを終え、空が抜ける屋上にのぼりました。プランターに何を植えたら良いかな?小さな作戦会議が始まります。

なぜ、元代々木保育園では、地域の人と一緒に菜園をつくることになったのでしょうか。高橋園長はこう話してくれました。

「この保育園は屋上もあり、園庭もあり、良い環境です。子どもたちのようすを見ていると外に出ても、ボールや三輪車、お砂場など限られた遊びに集中することが多い。草花を育てることで、水やりをしたり、虫を探したり、もっと自由に遊びを選択できる環境をつくりたいと思っている。職員も取り組んでいたが、もっともっと栽培物で遊んだり食育につなげたりできる環境を広げていきたい、という思いを永井さんに相談したら、色々な方とつなげてくれて、菜園づくりを進めることになっんです。」

保育園を後にし、みんなでご飯へ。上原駅前商店街にお店を構える「abiofarm’s natural bar MATELIA」でランチをいただきました。店主の遠藤篤法さんは、永井さんとマルシェを一緒に立ち上げた仲間です。ふだんは、日曜日だけランチ営業を行っているそうですが、この日は特別にプレートを用意してくださいました。英気を養って午後のお散歩へ向かいます。

皿の上の食事と飲み物

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自社農園で採れた新鮮な野菜たっぷりの美味しいごはんに大満足。

壁に絵を塗り重ね、まちに子どもを可視化する

続いて向かったのは、代々木上原駅近くの高架下。ここには、イラストレーターである小池アミイゴさんと富ヶ谷小学校の子どもたちが塗り重ねた壁画があります。アミイゴさんは、「自分の子が故郷といえるまちにしたい」という思いをきっかけに、子どもたちと一緒に地域に出る活動を続けています。

代々木上原駅の高架下の壁に子どもたちと絵を描いた「とみがやモデル」

元々は、町会からアミイゴさんに壁画を描いてほしいと依頼があったそうですが、アミイゴさんは子どもたちと一緒に、壁に絵を塗り重ねることを提案。プロジェクトを「とみがやモデル」と名づけ、2018年から壁画を通して地域に子どもを可視化する挑戦を行ってきたのです。

「目的はアートではなくてまちづくり。主役は子どもたちじゃなくて、この壁の前を通る人たちだ」と伝えながら、様々な学年の子どもたちと絵を描くセッションを繰り返してきました。自由な発想で色が重なった壁は、今では、暗い印象になりがちな高架下をさりげなくたしかに彩るまちの風景になっています。

そしてアミイゴさんは、この壁が現れるまでのさまざまな衝突や苦労、葛藤そして思いがけない感動を、笑いを交えてつまびらかに話してくれました。

「アートと落書きの違いは、どこにあるのか」

「なぜ、まちの人に子どもたちが見えていないのか」

「行政によるまちづくりが取りこぼしてしまうものがあるのではないか」

「活動を次につなげるために必要なことは何か」

アミイゴさんの正直な言葉をきっかけに、そんな問いを参加者みんなが考える時間となりました。

「これからの目標は、子どもたちの活動に対してこのエリアの企業に参加してもらうこと」とアミイゴさんは言います。子どもたちがまちに飛び出すことで、大人が子どもたちの存在に気づく。そこから手を取り合ったり、時にはぶつかったりしながら、地域の様々な主体がナナメの関係でつながっていく。とみがやモデルは、きっとそんな循環のきっかけなのだと想像しました。

いろんな人が行き交う中、子どもが自由でいられる公園

その後、代々木公園のお隣にある「渋谷はるのおがわプレーパーク」(通称:はるプレ)へ。

永井さんは、ここが現在の活動につながるきっかけの場所だと話してくれました。お子さんが生後6ヶ月の時に海外から帰ってきた永井さんは、周りに知り合いもいなく、日本の子育てや行政システムもわからない中、孤独を感じていました。でも「はるプレ」に通うようになり、だんだんと地域で輪が広がり、少しの間子どもを預け合える関係ができ、一気に楽になったと言います。そうした経験が今の活動につながっているそうです。

帽子をかぶってベンチに座っている男性

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一般社団法人渋谷の遊び場を考える会理事の糸賀未己子さん。右は、はるのおがわプレーパークの理念をかいた看板です。

「はるプレ」を、案内してくれたのは、一般社団法人渋谷の遊び場を考える会理事の糸賀未己子さんと、広報の山田実紀さん。お二人とも、元々はお子さんとはるプレに通っていて、お子さんが大きくなった今はスタッフとして運営に携わっています。

はるプレは、渋谷にも子どもたちが自由に遊べる場所をつくろうと、2004年にできた公園です。はるプレの理念が書かれた看板の前で、糸賀さんは「はるプレのモットー『自分の責任で自由に遊ぶ』は、やりたいことを⼦どもたちが自分で決めて、その結果も自分で引き受けるということ。単なる⾃⼰責任論ではなくて、むしろ子どもにはその権利があるんだ!と私は捉えているんです。もし失敗しても、それが成長につながるよう周りの大人がサポートできるといいですね」と話してくれました。

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高低差のある敷地には、子どもたちのアイデアからできた遊び場が広がります。

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子どもには隠れられる緑の茂み。奥にははるプレの春のシンボル・山桃が満開です。

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青空の下で、絵の具を大胆に使ったお絵描きタイム。

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公園にいらっしゃった方たちと一緒に「おしゃべりカフェ」に参加。

最後は、パークの一角に敷かれたゴザに座り「おしゃべりカフェ」に参加。月に1回、集まった人同士が色々なテーマでおしゃべりする場です。

「はるプレがどうなっていったら良いか、みなさんの力をお借りして考えたい」という糸賀さんの投げかけから始まりました。

糸賀さんは「閉じた子どものパラダイスをつくりたいわけじゃないんです。ここが公園で、色々な人が行き来する中、子どもが遊んでいるということに意味がある。本当はここを出ても子どもたちが自由でいられるのがいちばん良い。だから、来年度20周年を迎えるのを機に、はるプレを地域に広げていく動きをしていきたいんです」

アミイゴさんの「はるプレがまちに出ていくには?ではなく、どんなまちになったら良いと思う?という話が重要なんじゃないか」という言葉から、話は広がります。

「自分が子どもの頃は、いろんな年代の子と遊んでいたし、ルールが及ばない場所があった。それが今はまちにないのが不思議だ」と永井さん。

1時間ほどのおしゃべりの中で「子どもも大人もどろんこ成人式」「はるプレ音頭で盆踊り」「水かけ祭り」「地元中学生の獅子舞」など、たくさんのアイデアが出ました。「はるプレ 20 周年はみんな集合で」と約束して、渋谷おとなり散歩終了です。

印象的だったのは、子どもだけでなく訪れた場所で関わる大人たちが楽しそうにしている姿でした。「子どものため」「地域のため」だけでなく、まずは自分自身が楽しむこと。少しの勇気で視点と行動を広げること。その先に子どもたちと地域の大人たちをつなぐ、双方向のナナメの関係ができていくのかもしれません。

渋谷区で芽吹くナナメの関係に、たしかな未来を感じたお散歩でした。

テキスト:玉木裕希